今回は認知症の専門医、長谷川嘉哉先生のご著書『一生使える脳』から投資における老化リスクとの向き合い方を考えます。
※書評・感想ではありません
初めに申し上げておきますと、本書は投資本ではありません。
脳医学の本ですが、そこから投資家として学べることは意外と多いため紹介記事を書いてみます。
認知症の専門医が『一生使える脳』を通して教えてくれること
長谷川嘉哉著『一生使える脳』は全233ページという比較的読みやすいボリュームで、加齢による脳の衰えとそれに立ち向かう方法を分かりやすく教えてくれます。
普段から患者さんとその家族に分かりやすく説明しなければならない立場からか、医学的知識がなくても簡単に腹落ちさせられる仕上がりとなっています。
ネタバレにならない程度に、本書が教えてくれることを抜粋紹介します。
老化の問題は前頭前野の衰えにあり
脳の前頭葉という場所にある前頭前野は我々の知的活動において多くの役割を果たす重要な部位です。
本書で挙げている前頭前野の機能は3つ。
- 短期記憶と長期記憶の橋渡し
- 記憶を呼び起こすためのメモリ領域
- 感情のコントロール
高齢になるにつれ上記の機能が衰えるとどうなってしまうのでしょうか。
前頭前野が衰えるとどうなるのか
1.記憶力が減退
たった今覚えたこと(短期記憶)をいつまでも覚えていられること(長期記憶)に変換しにくくなるため、物を覚えにくくなります。
年齢を重ねるほど勉強が辛くなるのもそのせいではないでしょうか。
2.処理能力が低下
人は常に色々な記憶を引っ張りだして、複数の動作を並行的におこなっています。
この複数の動作を並行できる許容量を本書ではワーキングメモリと呼んでいます。
※「ワーキングメモリ」は当記事の重要ワードです。
ワーキングメモリは、脳内の作戦本部のようなもの。
入ってきた情報を一時的に保存して、脳内の他の情報と組み合わせ、思考、計算、判断などの知的生産作業を行います。~中略~
デスクで仕事をしているときにかかってくる電話、届くメール、上司からの呼び出しによってズレていくスケジュール。
出典:長谷川嘉哉『一生使える脳』
ふとした拍子にSNSを開いてしまい、そこから別のWebサイトを閲覧し、興味が次から次へとスライドしているところに同僚から「午前中の案件、どうなった?」と声がかかり、現実に引き戻される。
そんな日常の時間もワーキングメモリは働き続けています。
前頭前野が衰えると、上記の引用で言うところの作戦本部があまり機能しなくなり、あたかもメモリが極端に少ないPCのような処理能力低下をもたらしてしまうのです。
本書の中では具体的にワーキングメモリが同時に処理できる情報数や加齢によってどれぐらい低下するのかも解説しています。
3.キレやすくなる
前頭前野による感情をコントロールする機能が低下すると、感情に歯止めがかからなくなり、容易にキレやすくなります。
お店や駅、病院といった公共の場で理不尽な理由でキレている高齢者を見ると「年甲斐もなく・・・」と考えてしまいがちですが、加齢により前頭前野が衰えたからこそキレているのかも知れません。
記憶力や処理能力が低下すると、目の前の事象に対応しきれなくなる。
その結果、半ばパニック起こして感情的になってしまうのではないでしょうか。
以上の3点が脳の衰えに起因する「老化リスク」です。
この3点、いかにも投資に影響しそうでしょう?
老後に脳の機能を維持できるかは中年期にかかっている
長谷川先生は40代、50代から見えにくいところで脳の衰えは始まっており、食事・運動・飲酒喫煙といった生活習慣を見直すことで「一生使える脳」を手に入れることができると説いています。
もちろん脳の衰えが全くないまま老後を迎えることなどできませんが、脳の衰えを最小限にしつつ、多少は低下した脳機能を上手に工夫して使いこなすことが理想です。
たとえば前述のワーキングメモリ(情報を一度に並行処理できる量)が低下したなら、なるべくメモリに余計な記憶を置かない工夫が必要です。
長谷川先生は「すぐやる、メモする、書き出す」という方法を提案しています。
優先度の低い記憶はどんどんメモ帳に書き出して、徹底的にメモリ容量を確保するというシンプルなやり方です。
メモリが少ないPCで余計な常駐プロセスを切ってどうにか使い続けるのと似てるね。
具体的な対策については長谷川嘉哉『一生使える脳』で詳細にかつ分かりやすく解説されています。
【投資家的感想】老化リスクを覚悟した投資体制を作らなければ
ここから資産形成においてどういった老化リスク対策が取れるか考えていきます。
脳の衰え防止策を講じたうえで、脳が衰えても続けられるような投資体制を構築しなけれなりません。
脳のメモリを取られない「ほったらかし投資」を活用する
前述のワーキングメモリは加齢に伴って容量が低下、つまり並行できる作業量は少なくなっていきます。
年齢を重ねても家族のこと、仕事のこと、自分自身のことに注力するためには資産形成の記憶は脳のメモリとは別のところに置いておくべきでしょう。
常に相場を意識なければならないような短期トレードは否が応でも脳のメモリを占拠してしまいます。
PCっぽく言えば、重たい常駐プロセスとなり得ます。
ワーキングメモリの確保を目的とするならば、必然的に投資信託によるつみたて投資がベストとなるでしょう。
特にインデックスファンドは市場の新陳代謝を動的にキャッチアップしてくれるため、長年にわたりワーキングメモリの外で稼働し続ける「脳にやさしい投資」と言えます。
判断能力が鈍るからこそ把握しやすいポートフォリオにしよう
状況判断の能力が鈍ってもなお、その場その場で投資判断を迫られるようなやり方を続けていては判断ミスが起こりかねません。
あらかじめ資産配分を決めておき実直に守り続けるポートフォリオ運用が好ましいでしょう。
加えて、判断能力の衰えは集計・評価能力の衰えにもつながります。
ポートフォリオ運用であっても複数の金融機関、複数の口座に金融商品が分散していると管理にストレスを感じるようになるかも知れません。
ストレスは運用継続の大敵ですよ!
若いうちはあちこちに金融商品が散らかっている状況でもマメに管理できるでしょうけど、今マメなあなたが老後もマメだとは限りません。
私の経験則で恐縮ですが、脳機能の衰えは人格や行動様式をも変化させます。
脳が衰えてくるとマメに集計・管理することすら面倒に感じるかも知れないと想定して、老後までに少しずつ金融機関の集約や保有商品の集約をしていきたいところです。
たとえばインデックス型バランスファンドなら市場全体だけでなく資産配分割合も動的キャッチアップしてくれますから、よりシンプルなポートフォリオの実現にはもってこいではないでしょうか。
私自身、2020/05時点で世界経済インデックスファンド(株式シフト型)を概ね模倣したポートフォリオを形成しています。(コストをケチるため自力で組んでいます)
これもゆくゆくはオリジナルの世界経済インデックスファンドに少しずつ移行させることで、ポートフォリオのシンプル化を図っていこうかとは考えています。
移行するとしたら60歳過ぎたあたりかな。
それまで世界経済インデックスファンド生きててくれるかな?
感情的になりやすくなるなら、感情を挟む余地のない投資方法を選ぼう
個別株やFXなど短期売買は感情が敵と言えます。
パニック売りを起こしたり、ムキになって過剰なリスクテイクをしてしまったり、感情的になってプラスに作用することはほとんどないでしょう。
今は相場が自身の予想通りに動かなくても、イレギュラーな暴騰暴落が起きても平然としていられるあなたが、老後も同じように平然としていられるかは未知数です。
こうして偉そうに語っている私だってどうなるか分かりません。
相場の変動を見ても感情的にならないように、で済む問題ではありません。
前頭前野が衰えたらそもそも感情的にならないことが困難になるかも知れないのですから。
解決策はただ一つ。
日々の相場を見ないで済むような金融商品と投資方法を選ぶことです。
つまり投資信託の長期投資がベスト、個別株の長期投資がベター(※)といったところでしょうか。
※個別株は倒産リスクに注意が必要なため
脳の衰えを防ぐべく、投資ブログで意欲的なアウトプット習慣をつけよう
『一生使える脳』の中でもインプットした情報を自分で考えアウトプットする習慣を身に着けることを推奨していました。
インプット・プロセス・アウトプットを繰り返すことで脳はその機能を高め、保っていくことが期待できます。
手前味噌で大変恐縮なのですが、奇しくも以前に同じ主張の記事を書いたことがあって驚きました。
こういうところで意見が被ると嬉しいものです。
アウトプットするためには、自分で情報を集めて、自分で考えなければならないため半ば必然的に投資の知識が深まります。
脳のため、投資のため、両側面で投資ブログはあなたの糧となり得るのです。
ただし投資の知識が深まることとリターンが高まることは全く別ですから、あらかじめご了承ください。
【まとめ】老化リスクには早めの備えを
脳が衰えることで発生しがちな老化リスクを覚悟した『一生使える投資』について考察しました。
老化リスクに向き合い、立ち向かうために今できるのは「不確実な未来のために今からアクションを起こす」こと。
奇しくも投資と全く同じ基本スタンスなのです。
だからきっと、賢明な投資家は老化リスク対策にも賢明に取り組めると信じます。
そして私も、そうありたいと願います。
以上、長谷川嘉哉『一生使える脳』から学んだことを投資に落とし込んだ話でした。
【次回予告】さーて、次回の愚者小路さんは
愚者小路です。
好みやスタンスの違いと言ってしまえばそれまでなのでしょうが、投資信託のデメリットに「売買のスキルや知識が身に付かない」を挙げる人が時々見受けられます。
私の目的は資産を増やすことであって、売買スキルとやらを身に付けることではないのです。
ありがとうございます。
次回もまた見てくださいね。
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