続いては「運用相談のリアル ~顧客本位は根付いているのか~」と題し全6回にわたり特集してまいります。
2016年10月、金融庁は報道発表資料「金融行政方針」の中で顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の確立と定着を提唱しました。
それから3年後、ゆうちょ銀行による投資信託の不適切販売が明らかとなり、フィデューシャリー・デューティーの考えが金融機関に根付いていないのではないかという疑問の声が挙がっています。
問題発覚はゆうちょ銀行だけの事柄なのか、他の金融機関では顧客度外視の一方的な営業は本当に行われていないのか。
金融機関の店頭における営業実態について、投信ブロガーの愚者小路さんをお招きしてお話をうかがってまいります。
愚者小路さん、ほどほどにお願いします。
さっそくですがこういった金融機関による営業内容というのは意外とインターネット上にはなく、把握が難しい背景にはいったいどういった理由があるのでしょうか?
はい、投信ブロガーの愚者小路です。
順を追って説明致しますと・・・
おさらい:一般的に金融機関の店頭に相談に行かない方がいいとされる理由
金融機関の店頭が資産運用の相談窓口に不向きな理由は既に多くのサイトで語られており、その内容は概ね一致しているし、私も特に異論反論ない。
参考までにその理由をおさらいしておこう。
十分に認識している方はスキップしてほしい。
良い商品ではなく金融機関側が「売りたい商品」を勧められる
銀行にせよ証券会社にせよ、店舗のある金融機関ではだいたい「今売り出したいファンド」がある。
上から「このファンドを〇億分捌くように」とでも大号令がかかっているのだろう。
そうでもなければ何の運用実績もない新発売ファンドにいきなり巨額の運用資金が流入する理由が説明つかない。
上層部命令で売りまくらないといけないファンドがあると、店舗スタッフ個人の考えで長期投資に適したファンドを誠心誠意販売するなど夢のまた夢だ。
顧客からしても「自分に適したファンドを誠心誠意提案してくれるだろう」なんて期待するなど夢のまた夢だ。
これから資産運用を始める相談をしにきた顧客ならなおさら「今売り出したいファンド」を勧めやすい。
そういった顧客は価値判断の基準を持たず、非常に御しやすいのだ。
「今話題のファンドで皆様こちらを選ばれてます」とでも言えばイチコロだろうから。
有店舗の金融機関のサイトに掲載されている投資信託販売ランキングがアテにならない理由もそこにある。
顧客側に有用な情報は乏しく、ほとんどの場合「今売り出したいファンド」が分かるだけだ。
店頭の投資信託ラインナップは高コスト商品ばかり
投資信託の販売にかかるコストのうち、購入時手数料は丸ごと金融機関の取り分となる。
保有時にかかる信託報酬の一部(ざっくり半分ぐらい)もまた金融機関の取り分となる。
これらが金融機関側の儲けの源泉だ。
不思議なもので、購入時手数料の高いファンドは信託報酬もだいたい高い。
シンキングタイムを設けるまでもない。
なるべく購入時手数料の高い商品、または信託報酬の高い商品を買わせればよいのだ。
誰でも考えうる、非常にシンプルな答えだ。
(顧客が無尽蔵にいれば他の答えも出てくるだろうが、顧客数は限られている。金払いのいい顧客ならなおさらに)
2020年2月現在、既に大手ネット証券では投資信託の購入時手数料を完全撤廃している。
ネット証券は厳しい競争下にあるため一社が完全撤廃に踏み切ったら他社も追随しなければならないという事情はあったのだが、過程はどうあれ購入時手数料を取らないのが当たり前になってしまった。
一方、購入時手数料を取るのが当たり前としている有店舗の金融機関は今さらその「当たり前」をなかったことになどできない。
ネット証券の購入時手数料撤廃のニュースを受けても有店舗の金融機関がピクリとも動かないことからもその意向はうかがえる。
以上、ふたつの理由を総合すると、相談に行ったところで一方的にファンドを提案されてバカにならない手数料を取られる「カモられリスク」が高くなるだけなのだ。
故にわざわざ店頭に行く合理性は全くないと論じられるし、私もその論調には賛成である。
ネット上に体験談が少ないのは「発言者バイアス」があるから
特定はしないが有店舗の金融機関の多くはCMを大量に打ち「安心してご相談いただけますよ」「あなたに合ったご提案ができますよ」というイメージを猛烈に擦り付けている。
そう聞いたあなたにも思い浮かぶCMがいくつかあるはずだ。
それだけ大規模にCM打っていれば、それなりの相談数があって然るべきである。
相談しに行った顧客の一部でもその内容や顛末を発信していたら、事によると食べログの口コミ並みにあっても良さそうなものだが・・・どう検索してもほとんど出てこない。
その背景にあるのが「発言者バイアス」だ。
私が勝手にそう命名しただけなので正式な言葉ではない。
そもそも資産運用について何かしら情報を発信する人は最低限のマネーリテラシーを持っている場合が多い。
情報発信するにも人に説明できる程度の知識は必要だからだ。
右も左もわからず何となく知っている金融機関に相談に行った人がその詳細を発信することができるだろうか。
出されたお茶をすすりつつ、意味不明な言葉の羅列にただ曖昧にうなずきながら聞いた話をどれだけ人に説明できるだろうか。
できたとしても「何を言ってるかほとんど分からなかったけど、このファンドを紹介されました」程度ではないだろうか。
体験談どころかtwitterの文字数すら持て余すレベルである。
うかつに情報発信しようとして、うっかり個人情報(収入、現預金額など)を漏らしてしまうのもマズい。
詳しい人から情弱と罵られたり叩かれたりするのも面倒だ。
自身にメリットがないから何も言わないでおこう。
結果として多くの相談者が「だんまり」を選んでしまいがちなのは無理からぬことだ。
もっとも、年配層となると何かしらの体験談や口コミを発信するという習慣も発想もないのだが。
つまり店頭に資産運用の相談をしに行った人というのは、少なくともネット上では発言者になり得ない人たちなのだ。
ネット上にある意見が全てではないし、普通でもない。表層に見えているその意見は大きなバイアス(偏り)が起きている可能性がある。
特に投資については「発言者バイアス」を加味した冷静な価値判断が求められる。
金融機関からしたら、この「発言者バイアス」を上手(?)に利用しない手はない。
相談に来るような顧客は「発言者バイアス」の影に隠れた存在なので、どんな提案をしようとネットではそうそう明るみに出ない。
一言で言えば「やりたい放題」だ。
顧客度外視に自分たちの売りたい商品を一方的に売りつけるパワー営業は「発言者バイアス」があるからこそ成立しているわけだ。
ここにフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)の考えが育ちうる土壌があるだろうか。
「発言者バイアス」に隠れた店頭相談の実態、興味ないですか?
さて、ネット上で店頭相談の内容や体験談についてなかなか探せない理由も背景も分かった。
だがこれで記事を終えても、何の情報にもならない。お調子者の投信ブロガーが憶測で悪口雑言をまき散らしただけになってしまう。
そうだ。ネット上で検索できない情報なら、現場に行けばいい。
相談/提案内容を理解できるアタマがあれば、詳細をレポートできるのではないだろうか。
好奇心スイッチがONになったのと同時に、私は証券会社と銀行に来店予約を取り付けていた。
こういう時の私は仕事が早い。
来店予約フォームの備考には「投資信託を用いた資産運用の相談をしたい(当方初心者)」と記載した。
数十年と投資を続けていくことを考えれば、投資歴がたかだか十年程度の私など「初心者」みたいなものだろう。
「初心者」に明確な定義はないのでこちらの意図と先方の解釈が食い違ってもそれは致し方ない事だ。
今回含め、下記のような全6回構成でお伝えしていこうと思う。
もし私と好奇心のツボが同じであれば「発言者バイアス」の裏側を探るべく、ぜひお付き合いいただきたい。
- 第1回【序章】資産運用の相談体験談がほとんどない理由(今ココ)
- 第2回
- 第3回
- 第4回
- 第5回
- 第6回
【次回予告】さーて、次回の愚者小路さんは
愚者小路です。
まずは証券会社編。
某証券会社に行ったらどんな解説をされ、どんな提案をされたのか。
ネット証券で育った私にとっての店舗はじめて物語です。
ありがとうございます。
次回もまた見てくださいね。
応援していただくとより多くの方にご覧いただけるし、投稿モチベーションも上がります。
↑いつもランキング向上にご協力ありがとうございます!
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます
・・・なんて機能はないけれど、本件と関連が深い記事です。
もう1ページ、いかがですか?
コメント