続いては映画情報です。
フランス生まれの経済学者トマ・ピケティのベストセラー「21世紀の資本」映画版が2020年3月20日に日本で公開開始となりました。
一部のジャーナリスト・キャスター・学者といった有識者からも、映画界では異例の「学べる映画」に推薦コメントを寄せています。
本も読んでほしいところだが、まずは映画で現実を直視しよう。
いくら働いても豊かになれない秘密を映画は教えてくれる。—池上彰(ジャーナリスト)
出典:映画『21世紀の資本』公式サイトより
原作に忠実な映画だと思う
つまり、「風と共に去りぬ」や「戦争と平和」と同じだ見終わった後 大いなる悲しみと不安に襲われる
それを乗り越えろとピケティ氏は言っているのだが—久米宏
出典:映画『21世紀の資本』公式サイトより
資本収益率は経済成長率を上回るという公式「r > g」は原作を読んだことがなくてもご存知の方は多いことでしょう。
自ら労働をする傍らで自らの資本を動かすことで資本収益の確保を目指す個人投資家に「21世紀の資本」映画版はどう映ったのか、今回は投信ブロガーの愚者小路さんをお招きして感想をうかがってまいります。
愚者小路さん、よろしくお願いします。
有識者でもなく、富裕層でもない、そのうえ中産階級かどうかも若干危うい愚者小路さんにとってこの映画の評価はいかがでしたか?
はい、断じて中産階級の愚者小路です。
映画の概要、映画の評価を解説してから細かい感想を述べていきます。
トマ・ピケティ「21世紀の資本」映画版の概要
「21世紀の資本」は18世紀から現代までの経済変遷を格差社会という切り口で論じた作品です。
史実に基づいているためネタバレも何もないとは思うのですが、核心には触れないレベルの概要はこんな感じです。
18世紀は貴族 or 貧困の超二極
人口のわずか1%の貴族が資産の70%を保有していたという当時のヨーロッパ。
貴族でない者はほぼ例外なく貧困。
そんな救いようのない格差社会が蔓延していた。
資産家同士が結婚してその経済基盤をより盤石にしていく様子はまさに「お金がお金と結婚する」と言って良いだろう。
反面、社会福祉や教育もない貧困層は一生に渡り搾取され続けることが確定していたという。
そんな劣悪な社会状況もあり、当時の貧困層の平均寿命は17歳程度だったとされている。
第一次大戦で貴族の凋落が始まった
貴族社会の発展が頭打ちになるにつれ、ヨーロッパ諸国間の緊張は強くなっていった。
国家間の緊張という火花が第一次大戦という大きな戦争を生み出したのも決して不思議なことではない。
しかし第一次大戦は予想以上に長引き、各国は疲弊しきってしまった。
弱った国力を立て直すには多くの税金が必要だが、貧困な一般民衆は資産を持たず、税収など望むべくもない。
税金徴収の矛先が貴族に向かったことから、貴族階級の栄華が色を失っていった。
戦後、海の向こうのアメリカではバブル経済に色めき立ち、多くの民衆が投機に走る「狂騒状態」にあった。
ここでも狂騒するのは資金を投じる余力のある富裕層のみで、その他は投資/投機と何ら関係のない貧困層。
労働しながらもある程度の資産を築けるような「中産階級」は当時のアメリカにもほとんどいなかった。
第二次大戦勝利に湧くアメリカ
第二次大戦勝利後、アメリカに中産階級が生まれ始める。
軍需産業の好調と社会福祉の充実に後押しされ、資本主義の主役が中産階級にシフトしたのだ。
映画を通して中産階級が主役となっていた時代はここしかなかったように思える。
高度成長期、国力の弱ったアメリカが打った「一手」
中産階級、つまり労働者階級の人々が力を持つにつれ労働組合がその力を増していき、やがて増長した。
ストが頻繁に発生し、アメリカの経済力は一気に弱体化。
アメリカが弱体化している間にかつての敗戦国だった日本が自動車産業で一気にシェアを奪い、アメリカは明らかな窮地に立たされていた。
レーガン大統領は社会福祉を大幅に削減し、経済の立て直しに注力する政策を打ち出したことで、富裕層が喜び低所得層が苦しむ格差社会の構造が甦りつつあった。
アメリカにおける資本主義と格差社会の加速がこうして始まった。
中産階級が着々と減り続ける現代、ピケティの提唱する「資本主義を超える方法」とは
急速にグローバリゼーションが進んだことで、再び富の一極集中が生じている。
一極集中する先は貴族ではない。
アップルやグーグルなどの多国籍企業だ。
生産性や利益は向上するも、労働者には一切還元されない状況は中産階級の減少をもたらした。
ギグワーカーと呼ばれる労働法規や社会保険で守られない貧困労働層も増えてきている。
※映画内での表現に準じました。実際は必ずしも「ギグワーカー=貧困」とは限りません。
物価を加味した給与水準は60年前とほぼ同等であり、給与労働者が全く報われていない現状が浮き彫りになっている。
労働者ばかりが割を食うのは、企業がその利益を労働者に対し十分に分配していないから。
十分に分配されない利益はタックスヘイブンを利用した税金逃れにより、社会に還元されることすらない。
かつての貴族社会のように富める人間は資本収益で悠々自適に暮らし、持たざる(かつ与えられざる)人間は日々の労働で日々を生きるのみ。
こういった現状からピケティが「資本主義を超える方法」を提唱して終わる。
そこの主張はネタバレになるので伏せておこう。
愚者小路の評価:原作を読んでいなくても内容は十分理解することができた
原作を読んでいなくても内容は十分理解することができた
貴族が栄華を極めた18世紀から始まり、現代の格差社会に至るまで多くの変革と栄枯盛衰を分かりやすく解説した作品でした。
経済活動の主役が貴族⇒中産階級⇒多国籍企業の富裕層と変遷していく様からも、経済の歴史は欲望の歴史であるのだなと実感できました。
資本主義経済の加速とグローバルゼーションにより皮肉にも中産階級がいなくなり、旧時代的な資本の一極集中が起きつつある現代を目の当たりにして我々はどう生きるべきなのか、ピケティに問われたような気がしてなりません。
ピケティ自身の主張もあるのですが、あまりに大きな話なのでそれを労働者一人一人のアクションに噛み砕いて提唱してくれればもっと良かったかも。
(そこを観客一人一人に委ねたと解釈することもできそうですが)
ネガティブなポイントは1点だけ。
解説の助けとなるよう色々映像を盛り込んでくれてはいるものの、字幕を解釈しているだけで正直なところ精一杯でした。
日本語吹き替え版でもあればもう少し映像に目をやる余裕があったかも知れません。
そこが残念に思えたため★4つとしました。
愚者小路の感想:個人投資家として格差社会に思うこと
資本主義の歴史は価値観の増長とリセットの繰り返しだった
劇中でいくつも発生した栄枯盛衰。
これらは全て価値観の増長とリセットの歴史でした。
特定の価値観が社会の中で大きく増長してくると、たいてい何らかの社会的弊害が発生します。
貴族社会が増長すると国家経済の成長が頭打ちになり、閉塞感を打開するために植民地支配や他国との戦争に発展。
結果として戦争による疲弊が貴族社会を凋落させ、貴族社会という価値観がリセットされました。
第二次大戦後には社会福祉による中産階級の保護という価値観が増長した結果、労組の暴走による経済低迷が発生。
結果として社会福祉への注力を弱めざるを得なくなり、中産階級への手厚い保護という価値観がリセットされました。
現代に増長している価値観は・・・?
そう、多国籍企業による富の一極集中です。
このまま行き過ぎると、かつての貴族社会の再来ともいうべき「富裕層以外は全員貧困層」という事態を招きかねません。
行き過ぎた価値観は何かのキッカケでリセットされてきました。
戦争や金融危機などの「大規模かつ乱暴なリセット」という強烈な痛みを伴う方法で。
歴史に倣うのなら、多国籍企業への一極集中にもリセットが入る可能性はあるでしょう。
もちろんその前に各国の力で自力是正していけるのが最も美しく、ダメージの少ない方法ではあるのですが・・・
これまた歴史に倣うなら、価値観の増長が自浄できたケースはどうも無さそうなんですよね。
現在抱えている格差問題がどういう形で是正されていくのか、はたまた是正されないのかワクワクしながら見届けたいなと思った次第です。
社会の中で行き過ぎた価値観はどこかで揺り戻すって何だか面白い!
「見えざる手」というか「大いなる理」でもあるかのような壮大さを感じずにはいられないね。
ボードゲーム実験から紐解く日本の貧困問題
劇中である実験のエピソードがありました。
簡単に解説すると次のようなルールです。
何組もこのルールでゲームをプレイしてもらうと、「富裕層」側に共通の言動が見られたそうです。
特に最後がポイントですね。
ゲームの勝因は最初のダイスで「富裕層」側になったから、言い換えれば「(ゲーム内で)たまたま富裕層に生まれたから」です。
日本にも非正規雇用や度を超えた搾取など「雇用形態の歪み」のせいでワーキングプアといった貧困問題が色濃くなっています。
貧困に陥っている人に対し「努力不足だ」「自己責任だ」などと切り捨てる発言をするのは容易ですし、実際ネット上ではそういう意見を多々見かけます。
こういった相手の状況を汲まない発言をする人は先のボードゲームの「富裕層」側に立っているだけなのかも知れません。
今貧困に陥っていない人はただ単に貧困と縁遠い環境に育っただけにも関わらず「自分はたゆまぬ努力で今のポジションにいる。貧困に陥ってる人はそういった努力を怠ったのだろう」と錯覚しているのかも知れません。
このボードゲーム実験は実社会における富裕層と貧困層という関係性をシンプルに客観視して、より深く相互理解するために大変有用な実験だったと言えるのではないでしょうか。
少なくとも「今たまたま貧困でない私」はそう思いました。
「今たまたま貧困でないあなた」はどう思いますか?
富が循環する社会が理想。叶わないなら自力で循環装置を作るしかない。
劇中で挙げられた現代の格差社会における問題は、中産階級や貧困階級といった労働者にお金が循環しないことです。
経済においてお金の流れとは、人体における血流のようなものと言えます。
血流が滞っていればその組織は正常に機能しなくなるし、全く血流が来なくなればその組織は栄養や酸素が欠乏して緩やかに腐っていくでしょう。
特定の層にお金が巡らない状況も同じぐらい深刻な結果を招きかねません。
正義感やあるべき論で好き勝手に語って良ければいくらでも理想論を挙げられます。
- 国際的にたくさん儲けている多国籍企業や、遺産を相続するだけで一生食っていけるような資産家からしっかり税金を取ろう。
- 企業は利益を労働者にしっかり分配しよう。
(株主に配当でおべっか使ってばかりじゃダメよ!)
しかし上記のような理想を述べたところで、私個人がコントロールできる事なんて一つもありません。
実際に今後「現場で身をすり減らして頑張る労働者」に富が適切に分配される世の中が来る保証もありません。
- 私が国を動かす立場になる
- 私が「富の一極集中」にあずかれるような多国籍企業を起こす
- 私自身に微量ながらも労働収益以外の富が流れ込んでくる「小規模な循環装置」を作る
悲しいけれど、私にとって現実的な答えは3番しかありません。
「小規模な循環装置」っていうのはもちろん投資のことです。
つまり、持たざる者も投資をすることで労働収益一辺倒の状況に資本収益を上乗せさせることができます。
誰かが「富が循環する社会」を作ってくれるのを期待するか、誰も作ってくれない可能性を覚悟して自力で循環装置を作るか。
実は前者が「投資をやらない人」で後者が「投資をやっている人」なのかも知れません。
さいごに:今後の上映予定など紹介します
私が行ったのは2020年3月20日の公開初日。
コロナウイルスへの警戒で混雑度合いが全く想像つかないためオンライン予約でチケットを押さえました。
いざ劇場に着いたらその日の上映分は全て満席との張り紙が。
座席が一つ飛ばしでしか取れなかった影響もあるとは思いますが大盛況だったことに変わりなく、チケット押さえておいて良かったと胸をなでおろしました。
しかし上映中に周囲を見渡すと眠っている人がチラホラ。
初日に観ようという熱心な人ですら眠りに誘ってしまう感じの映画であることは包み隠さずバラしておきます。
作品の性質上、ドキドキハラハラといった目の離せない展開やメリハリはないからね。
鑑賞前には何かしら眠気対策をオススメします。
公開は新宿・渋谷・吉祥寺から始まり、その後は東北から南下していく形で順次公開予定となっています。
詳しいスケジュールは公式サイトや各映画館のサイトをご確認ください。
以上、「21世紀の資本」映画版の感想でした。
【次回予告】さーて、次回の愚者小路さんは
愚者小路です。
私も大昔は個別株をやっていまして、最初の2年と経たず投資信託へと投資対象を変遷させていきました。
個別株から投資信託へ切り替わる際、「おや?投資信託のチャートにはアレがない」って不思議に思ったものです。(最初だけですけど)
ありがとうございます。
次回もまた見てくださいね。
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